大学発ベンチャーの起業のすすめ
カイコ創薬学が関わる薬学に限らず、生命科学系の大学・大学院に所属する教授にとって、研究費の獲得は頭の痛い問題である。私自身これまでの30年間の教授経験の中で、研究費の問題がなければどんなに救われるだとう、と正直なところいつも思っていた。とはいえ、この問題から我々は逃れるわけにはいかない。国からの研究費は年々削減傾向にある。また以前は盛んに行われたという、学生の就職あっせんにかかわる企業からの献金などは、今では全く期待できない。このような状況にあって私は、大学の研究者が起業し、自らの研究費を得ることを勧めたい。今から30年前では起業することに対して、特に国立大学の教員にとっては、国家公務員法による兼業禁止規定による制限があった。しかしながら、文部科学省・人事院は記者発表を行い、国立大学の教員が自らの研究成果を事業化することを目的とした、いわゆる「研究事業化起業」の取締役を兼業することを公式に認めたのである。欧米の大学では教員が起業したり取締役を兼業することは頻繁に行われているが、我が国において、特に薬学分野においてその例は限られている。私は特に、将来独立した研究者として研究室を運営したい、という若い諸君にエールを送りたいと思う。
一般に大学人による起業というと、大学人が取得した特許を元に会社を設立することだと考えられている。私が言う研究事業化企業はそれとは趣を異にすることをご理解をいただきたい。私が提案しているのは、自分の財産を手に入れることを目的とした企業ではなく(それが問題だいうのでは毛頭ない)、大学の研究室に研究費を導入することを目的とした企業である。大学人は大学に所属し、学生の教育にあたり、自らの給与を得ている。私が提案しているのは、そこを出発点としたベンチャー企業の設立である。大学から給与を得ている教員が、自らの研究を事業化する企業を設立するれば、原理的にはその企業が倒産することはないのである。それを聞いて驚かれる方がおられるかもしれないが、教員が自らの手で自分の研究をすることを決意さえすれば、このことは必ず実現できるはずである。自分の研究を支援する企業を設立しようと言うのであるから、それくらいの気概を持って臨むことは当然である。
私自身は、21年前になるが、株式会社ゲノム創薬研究所を設立し、今日に至っている。その間一貫して、研究それ自体は自分の手で行う、という姿勢を貫いてきた。研究費が潤沢に集まっているといばれる状況ではないが、この会社は私の研究支援にとても役立っている。本稿をご覧になった若い研究者諸君が、自分もやってみようという思いに狩られることを心から願っている。